春よ来い(21)


第501回 コシノコバイモ

 ここ二週間ほど、探し続けている野の花があります。その名はコシノコバイモ。ユリ科の多年草で、4月から5月にかけて白っぽい花を咲かせます。

 私が初めてコシノコバイモに出合ったのは、10年ほど前です。わが家から直線で1キロほど離れた里山の斜面で偶然見つけたのです。ちょうどキクザキイチゲが花時を迎えていた頃でした。下向きに咲いている花は、何となくさびしそうで、それでいながら美しい。私は一目惚れしてしまいました。

 野の花の美しさにふれると、面白いもので、「もう一度あいたい」と思うようになります。コシノコバイモも例外ではありませんでした。私は翌年も同じ場所へ行きました。もちろん、見つけたときと同じ時期を選び、最初に出合った場所の周辺を探しました。しかし、その年も、さらにその翌年も見つけることができませんでした。

 コシノコバイモと再び出合ったのはそれから数年後です。2度目の出合いは思わぬ形で実現しました。吉川区山方のYさん宅を訪ねたときでした。玄関ドアの外の植木鉢を見た時、私は目を疑いました。縦15a、横20aほどの小さな鉢の中に、十数本のコシノコバイモが整然と並び、見事な花を咲かせていたのです。葉も花も全体の雰囲気も、私が初めて見たものとまったく同じでした。

 そこの家の人に聞くと、近くの里山で見つけたコシノコバイモの種をまいて、育てたということでした。インターネットで調べた時に、私は、コシノコバイモという野の花は数が極めて少なくなってきているということを確認していました。それだけに、種の段階から栽培してふやせることを知り、跳びはねたくなる思いでした。

 Yさんのお宅で再び出合い、私の気持ちにも区切りがついたのでしょう。その後、わざわざ里山に入ってコシノコバイモを探すことはなくなりました。また、山に入って野の花の写真を撮ったり、山菜採りをしても、コシノコバイモと再び出合うことはありませんでした。

 それが先日、安塚区のAさんに会ったことを契機に、無性にコシノコバイモにあいたくなりました。Aさんは、今年、近くの山でコシノコバイモを見たと教えてくださったのです。「山でコシノコバイモを見た」、その言葉は、自然の中で「もう一度あいたい」という私の思いを再び呼び戻しました。

 まず出かけたのは吉川区のYさんが種を取ったと思われる里山です。約1時間、山の中を歩き回りました。目指すは、カタクリとキクザキイチゲの群生地です。山のどこへ行ってもショウジョウバカマがいっぱいありました。ときどきトキワイカリソウ、スミレ、オオイワカガミの咲き始めたばかりのものと出合ったものの、カタクリなどの群生地はなく、コシノコバイモらしい花の姿はどこにもありませんでした。

 数日後、今度は安塚区にある山に登ってみました。こちらも1時間ほど歩きまわったでしょうか。吉川で登った山と違い、カタクリやキクザキイチゲの群生地が何か所もありました。チョウが舞い、ショウジョウバカマ、ミチノクエンゴサク、スミレなどたくさんの野の花と出合いました。それはそれで大いに楽しむことができたのですが、ここでもコシノコバイモの花を見つけることができませんでした。

 コシノコバイモの花言葉は、「母の優しさ」。見つけることが困難であればあるほど花への思いは募ります。今年は花が早く、ここ1週間ほどが最後のチャンスかも。10年ほど前に初めて出合った場所へもう一度出かけてみようと思います。今度こそあいたい。
  (2018年4月15日)

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