春よ来い(36)
 

第879回 いつのまにか

 最近、身の回りのことで「こりゃ、親父やおふくろと同じことやっている」と思うことが多くなってきました。

 朝から順番に紹介しましょう。まず、布団からなかなか起き上がれない。まっすぐ立てず、少し体をひねって、片腕を杖がわりにしてやっと体を起こしています。

 体を起こしたら、次に、布団の脇に置いている洗濯済みの靴下を履きます。太っているせいもあるでしょうが、足を少しひねって、靴下をかぶせ、ひっぱって直す。以前は足をまっすぐ立てて履いたものですが、いまはできなくなりました。

 布団から立ち上がるときは気合を入れて、「よいしょ」と言いながら立ちます。ここでも敷布団の上で体を起こすときと同じく片方の腕を使います。

 起き上がってからは、パジャマを脱いで、長袖のシャツを着ます。最近、予想してなかったことが起きました。ワイシャツのボタンがなかなかはまらないのです。特に左ボタン、うまくいきません。先日、起きてすぐ外に出たかったのに、時間がかかり、いらつきました。

 現在、私が寝ている場所は亡くなった母の部屋だったところです。2階の私の部屋からこの1階の部屋に移ったのは、夜間、母のトイレ介助が必要になってからです。

 朝起きると、まずトイレに行きます。トイレには2つのドアがあるのですが、外側のドアはともかく、内側のドアが閉めてないことがあります。父や母が自力でトイレに行っていたころ、朝、トイレのドアを開けると、内側のドアがよく開いていたものですが、2人ともこの世にいなくなったというのに、またドアを開けっぱなしにしてある。これは、明らかに私が夜中にトイレに行った後の行為です。

 なんで内側のドアを開けっぱなしにしているのか。ドアの取っ手に触る前に、手洗いをしたいという気持ちが動きます、手洗いをした後、振り返り、ドアをちゃんと閉めればいいことなのですが、どういう訳か忘れてしまっていることが多いのです。

 朝食をとって、家から市役所などに行くとき、家の者から「気をつけてね」「何か忘れ物ないかね」と言われます。「おれだって必要なものはちゃんと持っているわ」そう思っているのですが、毎回と言っていいほど何かを忘れています。

 一番多いのは携帯電話。出かけて途中で不携帯に気づくと、落ち着かなくなります。続いて多いのは財布、これも携帯電話と同じく大事な持ち物で、無ければ買い物も食事もできなくなります。やはり、無いと落ち着きません。

 車の運転にも変化が出てきました。先日も連れ合いを乗せて買い物に出かけたときに、「おじいちゃんと同じだね。道の真ん中に寄ってる」と言われました。白線が真ん中にあれば、左側を意識するのですが、無い場合は無意識のうちに真ん中に寄っている、ともすれば真ん中を走っているのかも知れません。

 家に戻ってからは、靴を脱いで、自分の部屋に行きます。そこで普段着に着替えるのですが、スーツをハンガーにかけても、左右のバランスが崩れたままのことがあります。じつは数年前から左手を上の方によく上げられなくなりました。途中で左右のバランスを崩しても、そのままにしておくことが多くなっています。

 父は後期高齢者になってから身の回りのこと、車の運転など多くのことができなくなりました。忘れられないのはトイレでお尻を洗浄するウオッシュレットを使えなくなったことです。父ほどではなかったですが、母もいろいろできなくなりました。そしていつのまにか、私も父や母と同じ道を歩み始めています。頑張らなきゃ。

  (2025年12月21日)

 
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