板山のカヤ葺の家々


 新潟県は東頸城郡大島村板山。私の伯母が住んでいる集落なので、時々訪れているが、ここにはカヤ葺の家がたくさんあって、数十年前の子ども時代のことをいろいろと思い出す。ここにいるだけでホッとして、のんびりした気分に浸ることができる。私の好きな集落の1つだ。

     


夜のはじまり

 夕陽が沈んで15分くらいたっただろうか。西の空を見ておやっと思った。黒とオレンジ、それにくすんだ青がつくり出すこの光景はどこかでみたことがある。確かに月も出ていた。絵本か、映画か、はっきりとは思い出せないが、何か、物語がはじまりそうな気がして胸がときめく。

     


米山とコスモス

 米山の南側の姿を見て育った私。一方、妻はといえば生まれた時から北側の姿を見続けてきた。どっちが素敵に見えるかという話になるといつもぶつかってしまう。ところが、20数年たって、ようやくどちら側にもそこならではの良さがあることに気付いた。田んぼに広がる稲やレンゲやコスモスの花などを見るときには米山をバックにすると良い。これは南側の魅力。北側は、何といっても夕陽だ。夕陽をバックにした時の米山は見事だ。

     


転作ソバ

 本来、稲が植わるはずの田んぼに大豆やソバを蒔く。政府が押し付ける減反政策でどれだけ農民が苦しめられたことか。最初のころは猛烈な反対運動も起きたが、そのうち諦めが支配し、「捨て作り」が行われるようになる。ソバはその典型だった。しかし、最近、そのソバを使って地域おこしをする人たちが出てきている。農民はほんとうにたくましい。

     


五百万石

 わが町の田んぼでいち早く穂を出し、実るのがこの五百万石という酒米である。この米の特徴は大きな穂にある。粒は普通米よりも一回り大きいし、穂の長さも違う。どっしりした感じと豊かなイメージは他の品種にはないものだ。酒を造る高校のある町=A吉川町は新潟県内屈指の五百万石生産地だ。

     


出穂

 ツン…ツン…ツン、ツン、ツン…ツン、ツ、ツ、ツン…、ツン…ツン、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツー、ツ、ツン、ツ、ツ、ツ、ツン、ツン、ツン…ツン、ツ、ツツ、ツン、ツ、ツン……ツ、ツ、ツン、ツ、ツ、ツン…ツ、ツツン、ツ、ツ、ツン、ツ、ツ、ツン、ツ、ツ…。
 幼穂形成期から、ゆっくり、ゆっくり、穂を生長させる稲。だが、いったん出穂がはじまると数日間のうちに出揃い、田んぼの色が変わる。この時期、田んぼをじっと見ていると、ツン、ツンと音をたてながら次々と穂が出てくる気がしてならない。

      


朝日浴びる棚田

 棚田の写真で多いのは夕日が沈む頃の写真だ。それも悪くはないが、私は稲の伸び盛りの時期に朝日をいっぱい浴びている風景の方が気に入っている。朝は6時半過ぎ、尾神岳の麓の田んぼはまだ露が残っていた。朝日を浴びた稲はとても力強く見える。田んぼの周りの林では、夏ゼミが泣き始め、小鳥たちの歌も聴こえてくる。

     


ナナトリの山

 「何でこの山が登場するのか」と思われるにちがいない。結論から言えば、私にとって想い出がいっぱい詰まった山だからである。わが家のジャガイモ畑がこの山の中腹にあった。また祖父は戦後の一時期、この山で炭を焼いた。春は山菜、秋にはアケビ、ミヤマツの宝庫となる。通称「ナナトリ」、地籍は吉川町大字尾神字国造山(こくぞうやま)、及び国造山外(こくぞうやまそと)。高いところで200mほどの普通の山でありながら、名前はでっかい。

      


頸城三山

 私の町のはるか南に2000m級の山がそろって見える。左から妙高山(2454m)、火打山(2462m)、焼山(2400m)。3つを総称して頸城三山(くびきさんざん)と呼んでいる。初雪を見るのも、山の雪解けの最後の姿もこの三山で確認している。高さのそろった三山は雪が残っていて、青空をバックにした時、一番美しい。もし、尾神岳や米山がなかったらこの三山が故郷の山ということになるのだろうが、ちょっと遠い存在だ。

       


巨大な鏡

 農村には農村ならではの風景がある。田植え前後の田んぼの景色もその1つだ。代かきが終わってから植えた稲が生長するまでのしばらくの間、水が張られた田んぼは大きな鏡になる。若葉いっぱいの林を映し、近くの民家を映す。まだ雪の残った遠くの山々を映すこともある。もちろん農作業中の人々も。「巨大な鏡」に映った景色は不思議なくらい魅力的だ。

     

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